移住やお仕事で海外にお住まいの方が増えています。相続人の中に海外に住んでいる人がいるケースは最近では珍しくありません。
海外在住の相続人がいる場合の相続手続きはどうなるのでしょうか?
相続人が海外にいる場合の手続の進め方や注意点など知っておきたいポイントを解説します。
目次
海外在住の相続人も遺産相続はできる
相続人が海外に居住していても遺産の相続はできます。
父が亡くなり土地や建物、預金などの遺産があるときは相続手続きが必要です。
例えば、海外に住んでいる子供がいるとしてもその子も遺産を相続することはできます。
ただし、日本にいる相続人と同じ手続きをしなければなりません。
遺産相続手続きには、遺言書を利用するか遺産分割協議をする方法があります。
手続きが簡易にできる公正証書遺言があるケースは少ないため、ほとんどの場合は相続人どうしで「遺産分割協議」をすることになります。
遺産分割協議は、相続人全員が遺産の分け方を話し合う分割方法です。海外在住の相続人がいる場合は相続人全員が集まって話し合うことは難しいため、電話やメールなどで話をまとめることになります。
海外在住の相続人は署名証明と在留証明が必要
例えば父が亡くなり、相続人は妻と長男・次男の3名で長男が仕事で海外在住のケースでは具体的な手続きはどのようになるのでしょうか?
長男が海外在住で日本の住民票を抹消している場合、印鑑証明書の発行ができません。
遺言書がなくて、遺産分割協議による相続手続きの場合は印鑑証明の代わりに署名証明書(サイン証明書)が必要となります。
また、海外にお住まいの長男が不動産を相続する時は、住民票の代わりに在留証明書も必要となります。
署名証明書(サイン証明書)や在留証明書の取り寄せには日数がかかるため相続税の申告が必要な場合は死亡日から10ヶ月を過ぎないように気を付けなければいけません。
署名証明書(サイン証明書)の発給方法
- 現地(お住まいの住所)にある日本領事館のホームページで詳細を確認
- 日本の戸籍を家族などに取り寄せしてもらいメール送付して正確な本籍を把握
- 司法書士などが作成した遺産分割協議書を日本から送ってもらい受領
- 手数料を現金で準備
- 領事館の営業日時を確認して直接本人が出向きます
ここで相続手続きの場合は必ず貼付タイプの署名証明をお願いします。 - 日本から送付する文書(遺産分割協議など)に領事の面前で署名
- 領事館作成の証明書と綴り合わせて割り印をしてもらう
署名証明書(サイン証明書)申請にあたっての必要書類
- 本人確認ができるパスポート等
- 署名及び拇印する遺産分割協議書等
署名証明書(サイン証明書)申請にあたっての注意点
- 相続人である申請者本人が日本国籍を有している事
- 相続人である申請者本人が領事館へ出向く事
代理申請・郵便申請はできません。 - 事前に遺産分割協議書等に署名及び拇印をしない事
遺産分割協議書等への署名及び拇印は領事の面前で行います。 - 署名証明書(サイン証明書)の手数料は現地通貨で支払います。
在留証明書の発給方法
在留証明書を取得するには申請者本人が直接大使館・領事館へ出向き手続きする必要があります。
在留証明書申請にあたっての必要書類
- 本人確認ができるパスポート等の書類
- 住所確認ができる滞在許可証等の書類
- 現地に3ヶ月以上の滞在が確認できる賃貸契約書等の書類
3ヶ月未満の場合は今後3ヶ月以上の滞在が見込まれると確認できる書類 - 戸籍謄本又は戸籍抄本
在留証明書申請にあたっての注意点
在留証明書の本籍地欄に番地までの記載を希望する場合のみ必要です。
- 現地の領事館に在留届を提出しておく事
- 相続人である申請者本人が日本国籍(二重国籍も含む)を有している事
元日本人の方は、居住証明が発給される場合もあります。 - 現地に3ヶ月以上滞在し、申請時も居住している事
3ヶ月未満であっても今後3ヶ月以上の滞在が見込まれる場合は、発給の対象となります。 - 在留証明書の発行手数料は、現地通貨で支払う事
海外在住者の遺産分割・相続手続の注意点は3つ
相続人のに海外在住者がいる場合の相続手続は、通常と違って注意点があります。
まずはその3つをご紹介します。
- 海外のお住まいの相続人も日本の相続税申告が必要
- 書類の準備とやりとりに時間がかかる
- 遺産分割後のお金の受け渡しには工夫が必要
海外在住の相続人も相続税申告が必要
海外在住の相続人も日本の相続税申告が必要です。
遺産を受け取った相続人がたとえ海外に住んでいても日本の相続税が課税され、相続税の申告が必要となります。
亡くなった方が保有していた財産であれば、原則日本の国内財産だけでなく海外の財産についても課税対象となります。
ただし、被相続人と相続人の両方が10年以上海外に居住していた場合は、亡くなった方の日本国内にある財産のみ課税対象となり、海外にある財産は対象になりません。
書類の準備と郵送に時間がかかる
海外在住の相続人がいる場合、国際郵便で書類のやり取りをすることになります。
日本国内と違い、郵送には時間と手間がかかります。
先に説明したサイン証明書や在留証明書は、原本が必要となるため国際郵便の利用が不可欠です。
手間暇と費用を減らす工夫として、財産目録や遺産分割協議書など日本から送る書類は、PDFデータにしてメール送信の方法を利用することを検討しましょう。
メール添付の方法が可能であれば、取得した在留証明やサイン証明を海外在住者が日本に送る時の1回だけ国際郵便を利用すればよいので効率的です。
遺産分割後のお金の受け渡し方法には工夫が必要
次に問題となるのが、海外在住者に遺産分割後のお金をどのように受け渡すのかです。
海外送金も手続き的には可能ですが、手数料が高額で手間もかかります。
他に可能な手立てとして下記の3点が考えられます。
- 日本の銀行口座を開設していれば日本の口座に振り込む
- 日本にお住まいの家族に代わりに受領してもらう
- 不動産など送金しなくてもよい財産を相続してもらう
海外にお住まいであっても日本の不動産を相続することは可能です。
日本国籍ではない相続人は宣誓供述書が必要
相続人が海外国籍の場合はどのように手続きするのがよいのでしょうか?
日本では、「相続は、被相続人の本国法による」と定められているため、亡くなった方が日本国籍であれば、相続人の国籍にかかわらず日本人と同様の権利・義務があります。
国籍を海外に変更している相続人の方については、必要書類や手続きの進め方が複雑になります。
海外居住でも日本の国籍がないと、署名証明書や在留証明書を発給してもらうことができません。
外国に帰化して問題となるのが、日本国籍を離脱して戸籍から抜けるため、除籍となった後の情報を戸籍謄本で確認することができないことです。
相続人の帰化先に日本同様の戸籍制度があれば、その国の戸籍証明書を取得することで手続きが可能ですが、日本のような戸籍制度がある国は少ないのが実情です。
そこで、戸籍の代わりなる書類として宣誓供述書を準備します。
相続手続きに使用する宣誓供述は、被相続人の亡くなった日や自身が相続人である旨などを記載し大使館や本国の公証役場で記載内容が真実であることを宣誓して認証を受けます。
相続手続きに使用する宣誓供述書の例
相続手続きに使用する宣誓供述書について記載します。
- 私は○○○○年〇月〇日生まれです
- 日本国籍だった時の名前は○○です
- 私の日本での最後の住所は○○です
- 私は〇年〇月〇日にアメリカ国籍を取得
- 私の現在の名前と住所は下記のとおりです
名前
住所 - 被相続人◯◯は年月日に死亡した
- 私は被相続人◯◯の長男である
- 被相続人の遺産についての協議の内容は下記のとおりです
遺産分割協議書の内容を記載 - 宣誓供述を行う者の住所
- サインが本人で間違いない
上記のような内容を1通にまとめた宣誓供述書を母国語で作成します。
これを現地の公証人の面前で署名し、認証を受けて手続きに利用します。
宣誓供述書は日本国内の相続手続きに利用するため、現地の母国語で記された書類だけでなく、その内容を日本語に翻訳したものも必要となります。