遺産の中に不動産があると、相続人同士の話し合いで、分け方を決めることが難しくトラブルになるケースがあります。
日本では特に、相続財産に自宅土地建物が含まれているケースはよくあり、事前に何の準備もしていない場合は、対応を間違えてしまうと深刻なトラブルになってしまう例は少なくありません。
相続する方法について、【正しい知識を持つこと】【お互いに譲り合うこと】が揉めずに遺産分割をするポイントです。遺産分割は相続人にとって人生のターニングポイントであり、感謝と譲る気持ちを持って臨むことが出来る人は、その後の人生にも大きくプラスに働くものと感じます。まずはご自身がそのマインドセットをするのが大切です。
ここでは、不動産相続でよくあるトラブルと対策について解説します。
目次
遺産が不動産の場合は遺産分割が難しい
遺産分割協議とは、亡くなった方の遺産をどう分けるのかを相続人全員の話し合いで決めることです。相続人全員が納得した遺産の分け方であれば、どのように分けても構いません。
土地や自宅などの不動産は、それ自体を分けることができないため、遺産分割では揉めやすい財産だといわれています。
なぜなら不動産をいくらと見るのかの評価方法はいくつかあり、どの方法で評価するのかで話し合いがまとまりにくいためです。
不動産には、路線価や固定資産税評価額、実勢価格(時価)と評価方法がいくつかあります。売却して分けるのが一番平等に分けられる方法ですが、そうすることが出来ない事情がある場合は、分け方が難しくなります。
土地や不動産の分割方法は4つ
不動産の分割方法では、「代償分割」「換価分割」「現物分割」「共有分割」の4つがあります。それぞれの方法の特徴と実際の分割では、どのような場合に利用できるのかについてご説明します。
①複数の不動産をそれぞれ分ける「現物分割」
現物分割とは、不動産などの遺産を、そのまま引き継ぐ方法です。
たとえば、建物を長男が単独で相続し、土地を「分筆」して、それぞれA土地は長男、B土地は次男と分けて相続する方法です。
分筆とは、一筆の土地を測量・分割してその旨を登記して「別々の不動産」にすることです。ただし分筆できるのは「土地」のみです。建物は分割できません。
現物分割は相続手続きが簡単になるものの、相続人の間で遺産の分け方が不公平になりやすい点が問題となります。相続人のひとりが不動産を独り占めしてしまうと、他の相続人から不満が出て、遺産分割の話し合いがまとまらなくなることもあります。
②不動産を相続した人が他の相続人にお金を払う「代償分割」
2つ目の方法は、不動産を相続した人が他の相続人に代償金を払ってお金で解決する「代償分割」です。
たとえば、実家の土地建物に3,000万円の価値があり、子どもが3人いる場合を例に考えます。
長男が実家を相続した場合は、次男と三男にそれぞれ1,000万円(法定相続割合の各3分の1)の代償金を払って解決します。
代償分割は、遺産として不動産をもらえなかった次男・三男も相応の金銭を受け取れるため、不満が出にくい分け方です。また、実家の土地建物のように現物分割が難しい遺産でも、分けることができます。
ただし、代償分割するためには対象不動産をいくらと計算するのかの「評価」が問題となります。不動産には「定価」がなく、評価方法が複数あるため、「どの評価を採用するのか」で話がまとまらないことがあります。
また、不動産を相続する長男に代償金の支払能力があることが必要となります。
③不動産を売って現金化して分ける「換価分割」
3つ目の方法は、換価分割です。
換価分割とは、不動産を売って、売却金を相続人で公平に分ける方法です。不動産の名義を代表相続人一人に登記して、代表者が売却して諸経費を引き、手元に残った額を話し合った分割割合で分けます。
たとえば、亡くなった父名義の実家があって、相続人が子ども3人の場合、不動産が3,000万円で売れて経費が300万円かかった時は、2,700万円を子ども達が3分の1ずつに分けると決めた時は、全員が現金900万円ずつを受け取ります。
換価分割は、最も平等に分けられる方法ではあります。
その一方で、相続人のひとりが実家に住んでいる場合など、売却が難しいケースもあります。
また、不動産の名義人にならなくても売却代金を受け取った相続人は全員、譲渡税について確定申告をする必要があります。
④相続人が共同所有する「共有分割」
相続人たちが話し合いをしても、どうしても不動産の分け方について決められない場合や、そもそも話し合いができない場合などに「とりあえずそのままにする」のが共有です。
共有とは、不動産を複数の人が共同所有することです。相続した不動産を共有する場合、法定相続人が法定相続割合に応じた「共有持分」を取得して、そのまま全員で共有状態にします。
ただし、共有状態の不動産は、たとえば「賃貸に出して活用したい」、「リフォームしたい」などと考えても、他の共有者も足並みがそろわないと自由に動かせません。売却するにも「共有者全員の合意」が必要なため簡単に売ることができません。
共有者が亡くなって、さらに相続が発生したときには、さらに共有者が増えてしまい複雑になってしまうケースもよくあります。
このように、共有での相続は土地の売却や活用を思うようにできず管理コストだけがかかり続けてしまう恐れがあります。共有分割は問題の先送りにしかならないため最後の手段と考えて可能な限り避けましょう。
不動産相続でトラブルになる前の対策は4つ
不動産相続のトラブルを避けるための事前にできる対策を4つ紹介します。
相続トラブルにならないためには、事前に予想されるトラブルを想定して生前に対策をしておくことが大切です。
事前に押さえておくべきポイントを確認しましょう。
①所有している不動産の価値や売却可能性の確認
不動産を売って現金で分ける場合は、いくらで売れそうなのかの見込み額を確認したうえで話し合うことがスムーズに進めるポイントです。
また、最近では意外と価値がない負動産を高く売れると勘違いしている相続人がいることで、話がうまく進まないことがよくあります。
【売りに出すと売れる物件なのか?】や【売却可能性があるなら、いくらくらいで売れそうなのか?】は不動産会社に査定をお願いして確認しておきましょう。
田舎の実家については、売却するのが難しい物件もたくさんありますので、まずは地元の不動産会社に査定依頼をすることをおすすめします。
②「空き家」と「住んでいる人がいる家」の対策は違う
空き家の場合は、元々空き家状態だった実家を相続すると長い間、訪問して管理することができずに、放置されているケースがよくあります。
人が住まなくなった建物は、驚くほど痛みが早いものです。親が生前に施設に入ったり入院したりして自宅に戻るのが難しいと判断したタイミングで、速やかに手放すことを視野に入れて、その方法を検討しておきましょう。
【売却ができそうな物件なのか?】【建物付きで売却可能か?】【更地にすれば売れそうか?】【自宅内部の荷物の処分はどうするのか?】【解体にかかる費用はいくらなのか?】【解体したら固定資産税はいくら増えるのか?】など検討材料になる情報を関係各所に問い合わせて集めておきましょう。
相続人のひとりが住んでいる家の場合は、独身の子や離婚して親元に戻った子などが実家に住んでいるケースの場合はどうでしょうか?
遺産に十分な預貯金がある場合は、自宅を相続しない子供が預貯金を多く相続するなどで対応ができます。自宅がメインの財産で預貯金がわずかしかない場合は、分割が難しくなります。
自宅を相続する子が、他の相続人に相当な金額(代償金)を払える経済力がないケースがほとんどで、最悪は売却のために引っ越しをする覚悟も必要です。生前の対策としては、遺言書や生命保険を活用することも検討しましょう。
夫が亡くなり、妻が残された場合は、妻が自宅に住み続けられるために、令和2年4月以降の相続から「配偶者居住権」や「配偶者短期居住権」という制度も始まりました。
③遺言や生前贈与の活用の検討
遺言書があれば、遺言書の通りに遺産を分割することになります。
遺言書がなく、遺産の分け方に指示がなければ、相続人同士の話し合いで遺産の分け方を決めなければなりません。当事者が分割方法を決めるのは意外と難しいため、遺産を残す人が遺言書を作って指示しておくことが望ましいでしょう。
遺言書は法律的に正しい方式でなければ使えません。できれば公証人に依頼して公正証書遺言を作成することを推奨します。
亡くなる前に、不動産の名義を確実に変更しておきたい場合は、生前贈与も検討しましょう。
生前贈与をしておくことで、相続の時にトラブルになることを避けられるケースもあります。ただし、贈与税や不動産取得税など各種税金が高額になることが予想されます。事前にかかる経費についても検討しておくのが良いでしょう。
④代償金として生命保険の活用を検討
余裕資金があれば、普通預金や定期預金に預け入れしている金銭を生命保険に替えて、渡したい相手を受取人に指定し相続財産から切り離すことが出来ます。
死亡保険金は相続財産ではなく、受取人の財産なので他の相続人からのハンコなしで簡単に現金化ができます。
そのため、例えば実家を相続する長男を受取人に指定して親が生命保険に加入しておけば、同居していた長男は親が亡くなったあとに保険金を代償金として他の相続人への支払いに充てることができます。
生命保険金を利用した代償分割を考える場合は、契約者・被保険者・受取人を誰にするのかの契約形態によって課税される税金(相続税、贈与税、所得税)が変わりますし、受け取る保険金が相続財産にならないように考えて加入する必要があります。
遺産に土地建物がある相続は、生前の対策が重要
遺産の中に土地や建物がある場合の遺産分割は、完全に平等に分けるのは難しく、実家や親が苦労して手に入れたアパートなど手放したくないという思いの強さが相続人によって違うためトラブルになりやすいものです。
特に相続財産が「実家不動産のみ」で同居していた相続人がいる場合はさらに分割が困難です。そのまま住み続けたいと考える人がいる一方で、さっさと売却して現金化して分けたいと考える人もいるためです。
相続で揉める家族に特別な特徴はありません。ごく普通の家族が相続をきっかけにお付き合いしなくなる現実があるのです。大切な遺産を次の世代に引き継ぐ場合は、生前から揉めないための対策をしておく必要があります。
ご自身の家族に当てはめて具体的にイメージしてみましょう。お持ちの財産や相続人の状況を考えて、ノートに書き出すことで頭が整理できて、将来揉めない相続の対策ができるでしょう。