今日は、「自筆証書遺言」の検認手続きのお話です。
遺言書を必ず書くべき人というのは、少なからずいらっしゃいます。
特に、お子さんのいないご夫婦には強く強く遺言書を書くようにおすすめしています。
すると、『費用がかかるので自筆で書きます。検認すればいいんでしょう?』とおっしゃる方も中にはいらっしゃいます。
「公正証書遺言」であれば、必要なかったこの『検認手続き』が、実は想像よりはるかに大変で時間がかかる作業なのです。
まず亡くなった方の戸籍集め。生まれから亡くなるまで、戸籍をたどります。最終の亡くなった記載のある戸籍を読み、その前の改正原戸籍や除籍をそれぞれの本籍地から取り寄せます。
相続人が亡くなっているケースでは、その方についても生まれから亡くなるまでの戸籍集め。古い戸籍の文字は手書きでとても読みにくく、慣れていてもこの作業はかなり大変です。
必要な戸籍が全てそろったら、検認申し立て書と一緒に家庭裁判所に提出。
相続人全員に家庭裁判所から検認のお知らせが届き、約1か月後の検認手続き日に家庭裁判所へ、遺言書を持参。検認済証明書をもらう。
これも、実際の場面では 相続人同士が顔を合わせ遺言書の開封をかたずを飲んで見守るという気詰まりな場面を避けて通ることはできません。
検認前は、仲良く会話していた相続人が、検認後 家庭裁判所のお部屋から出てきて、無言で口をきかなくなったケースもまれではないのです。
申立書の作成や戸籍集めを、司法書士などの専門家に依頼すると、費用がかかり、戸籍の実費や取り寄せの郵送料もばかになりません。
自筆証書遺言で節約したつもりが時間・労力そして残された大切な家族に多大な負担を強いることにもなるのです。
自筆証書遺言とは
公証役場へ行き、公証人に自身の希望を話して作成してもらう公正証書遺言とは違い、気軽にご自身で書ける遺言書として「自筆証書遺言」があります。
しかし、自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認手続きが必要になります。
※2020年7月にスタートした法務局での預かり制度を利用する場合は検認は不要です。
「検認」とは必要な戸籍や相続人全員の住民票などすべて揃えたうえで家庭裁判所に申立をして、家裁の指定する検認日に遺言書を持参し、検認済み証明書をもらうことです。
この一連の作業をしないと、自筆証書遺言は執行(不動産登記や預金の解約)ができません。
自筆証書遺言のメリット
- 費用がかからない。法務局預かりは費用がかりますが安い
- 一人で書くことができて気軽
- 公証人や証人などの他人に内容を知られることがない
自筆証書遺言のデメリット
しかし、メリットの裏返しはデメリットでもあります。
- 戸籍の遡りなどの取り寄せに時間がかかりすぐに執行できない
- 専門家のチェックを受けていないため、執行できる内容になっておらずせっかく書いたものが使えない
(当事務所に持ち込まれる自筆証書遺言もこのようなケースが多くあります)
法務局での自筆証書遺言の保管制度が2020年7月にスタートしました。
自筆証書遺言はご自身で書いたものを封をせずに法務局に持ち込めば、内容の精査まではしてくれませんが、保管してもらえます。
その場合、本人確認書類とともに遺言者自身が出向く必要があります。
預かり証として、保管証が発行されますが、公正証書と違い遺言書に書かれている内容の記載はありません。
遺言者が亡くなった際に相続人からの請求により、遺言書情報証明書を取り寄せてこれにより遺言執行をします。
取り寄せには遡り戸籍や相続人の戸籍住民票など提出書類が多く手続きが煩雑です。
法務局預かりの自筆証書遺言は家裁の検認手続きは不要ですので、これはメリットです。
執行に耐える内容で書かれているものかは別問題です。