公正証書遺言があれば遺産分割協議は不要

亡くなった方(遺言者)が公正証書遺言を作成していた場合、遺産分割協議書は基本的に不要です。

公正証書遺言は公的な証明力や有効性・執行力が高い遺言書であり、どのように財産を分ければよいかについて明確に記載されていることが一般的です。

公正証書遺言がある場合、遺言者の死亡(相続の開始)と同時に法的効力が発生し、原則としてその遺言内容にそって財産を分ければ良いため、わざわざ遺産分割協議書を作成する必要はありません。

この記事では、トラブルなくスムーズに相続手続きを済ませるためにも、公正証書遺言があれば遺産分割協議書が不要である理由をご説明します。

公正証書遺言があると遺産分割協議が不要の理由

公正証書遺言と遺産分割協議書は、どちらも「相続での財産の分け方について記した法的書類」です。公正証書遺言は財産の分け方を遺言者が決めたものであるのに対し、遺産分割協議書は相続人全員で決めたものです。

遺言書には「全ての財産を○○に相続させる」「不動産を△△に相続させる」などといった内容が記載されています。

「誰に何をどれだけ相続させるか」を遺言者(亡くなった方)が生前に指定しているため、遺産分割協議は行わず、遺言書に記載されたとおりに相続の手続きを進めていくことになるのです。

遺言書が遺産分割協議より優先される理由

亡くなった方には、それまでに築き上げた自身の財産を自由に処分する権利があります。

その意思は死後も尊重されるため、遺産分割において公正証書遺言がある場合は、遺言書による遺言者の意思が優先されるのです。

自身の亡き後、残した財産をどう相続させるか(相続させないか)については、憲法で認められた財産権の範囲内で遺言者が決めるべきことと言えます。

例外はいくつかありますが、遺言書がある場合は遺産分割協議より優先して遺言書のとおりに遺産を分けるのが原則です。

公正証書遺言があるが遺産分割協議が必要なケース3選

公正証書遺言があっても遺産分割協議書が必要になるケースはいくつかあります。

相続人が遺産分割をしなくてもいいように、せっかく書いておいた公正証書遺言の意味がなくなってしまわないよう、作成前の注意点として確認しておきましょう。

  • 公正証書遺言に財産の一部しか記載されていない
  • 相続人全員が合意によって公正証書遺言を無効にすると判断した
  • 遺言者より受遺者が先に亡くなっている

公正証書遺言に財産の一部しか記載されていない

公正証書遺言に財産の一部しか記載されておらず、遺言者の死亡後に遺言書に記載のない財産が見つかった場合は、どんなに少額な遺産であっても遺産分割協議を行って遺産分割協議書の作成が必要となります。遺言書に記載のある財産についてのみ効力があるためです。

公正証書遺言の作成時に遺言者自身が把握しきれていなかった財産や、遺言書への記載をうっかり忘れてしまった財産、遺言者が意図して明らかにしたくなかった財産がある場合も考えられます。

また、記載はあるものの内容に誤りがあった場合も、遺言書に書き漏れてしまった財産として扱われてしまいます。例として、不動産の表示を地番ではなく住所で記載したり、銀行の口座番号の書き間違いや記載漏れなどです。

他には、遺言書作成時には持っていなかった新たな銀行口座の開設、不動産の取得、株などの投資を始めるなどして、財産が増える場合もあるでしょう。

これらが後から見つかるケースも少なくないので、遺言書の作成時には注意が必要です。

公正証書遺言の作成段階で、このような漏れを防ぐために、「全財産を○○に相続させる」「遺言書に記載のない財産は全て△△に相続させる」などといった包括的な一文を記載することをおすすめしています。

ただし、この一文を設けることにより、文字通り「後から増えた財産や記載漏れの財産すべてがその一文に含まれてしまう」という点も理解しておきましょう。多額な財産の記載漏れがある場合には、遺言書全体の有効性に影響が生じてしまう場合もあります。

遺言書の作成前に、自身の財産について漏れなく把握しておくことがとても大切です。

相続人全員が合意によって公正証書遺言を無効にすると判断した

公正証書遺言の内容(遺産の分け方)について相続人全員から納得が得られず、公正証書遺言を無効にすることに全員が合意した場合には、相続人同士で遺産分割の方法を協議し、遺産分割協議書の作成が必要になります。

遺言書に有効期限はないため、例としては80歳で亡くなった方が50歳の時に作成した遺言書であっても、形式的には有効です。

しかし、相続人からすれば、作成時から30年もの間に遺言者に心情の変化はなかったのかと考えることもできますし、遺言者自身が遺言書を作成したこと自体を忘れていて内容の見直し(遺言書の書き換え)を失念していたかもしれません。

こういった場合でも、「亡くなった人の意思を優先させる必要があるのか?」と相続人が疑問に思う場合もあるでしょう。

そのため、相続人全員の合意の下で公正証書遺言を無効にし、遺産分割協議を行うことが認められています。もちろん、遺産分割協議は相続人全員の合意がないと成立しません。

受遺者がいる場合は、その受遺者の同意も必要

公正証書遺言を無効にして遺産分割協議をする際、相続人以外に「受遺者」がいる場合は、その受遺者(相続人ではないが、遺言で遺産を受取る人)の同意も必要になります。

受遺者の権利を相続人らが勝手に奪うことはできないため、まずは「遺贈の放棄」をしてもらうことになります。

その中でも、公正証書遺言に「包括遺贈」についての記載があった場合の遺贈の放棄は、「家庭裁判所への相続放棄申立」が必要な点に注意しましょう。

この形式の「放棄」ができていない場合、包括受遺者の権利を害する合意となり、後にされた遺産分割協議も無効になってしまいます。

相続人に加えて、受遺者からも公正証書遺言の無効化についての同意(遺贈の放棄)を得られなければ、遺産分割協議は有効になりません。

遺言執行者がいる場合は、その遺言執行者の同意も必要

公正証書遺言には、記載されている遺言内容通りに相続手続きを遂行するために「遺言執行者」が指定されている場合があります。遺言執行者は、遺言者が任意に選ぶことができるため、相続人とは限らず、別の利害関係者や法人が指定されていることも珍しくありません。

相続人全員が公正証書遺言の無効化に同意したとしても、遺言書で指定されている遺言執行者の同意が得られない場合は、公正証書遺言を無効にして遺産分割協議をすることはできないのです。遺言執行者の権利義務を妨害することとなってしまうためです。

遺言者より受遺者が先に亡くなっている

遺言者が亡くなった時点で、遺言書に記載された財産の相続人や受遺者が遺言者よりも先に亡くなっている場合、その部分については遺言書の内容が無効になってしまい、遺産分割協議が必要となります。

この無効の意味としては、遺言全体が無効になるわけではなく、死亡した受遺者に与えるはずだった部分についてのみ無効となります。よって、複数人に対して相続または遺贈させる遺言の場合には、先に死亡した受遺者の部分以外については有効のままです。

例えば、夫が作成した遺言書の中に「不動産①を妻に相続させる」という文言があって妻が夫よりも先に死亡していた場合、不動産①については相続人全員が遺産分割協議を行って誰が相続するかを決めることになります。

また、受遺者が先に死亡して無効となってしまった部分については、法定相続に戻ってしまいます。「受遺者の相続人」が相続するわけではないことを覚えておきましょう。

こういったことがないように、対策として2つご紹介します。

予備的遺言を規定する

人が亡くなる順番は、誰にもわかりません。そこで、受遺者が遺言者よりも先に死亡した場合に備えて、遺言の中に予備的な文言を盛り込んでおくと良いでしょう。

例えば、「万が一、長男〇〇が遺言者よりも先に、もしくは同時に死亡した場合には、当該財産は長男○○の子△△へ相続させる。」といったように、受遺者よりが先に死亡した場合に備えて、次の承継先を決めておくのが予備的遺言です。

これによって、もし万が一受遺者が先に死亡したとしても法定相続に戻ることなく、予備的な承継者が相続することになるため、先を見越して規定しておくことが望ましいと言えます。

なお、遺言執行者についても予備を定めておくことが可能です。遺言執行者が先に亡くなっていた場合は、遺言執行者の選任を家庭裁判所に申し立てる必要が出てくるため、財産の予備的な承継先とあわせて、遺言執行者についても予備執行者を盛り込んでおくことも考えておきましょう。

新しく遺言書を書き直す(書き換える)

遺言書は一度しか書けないわけではなく、何度でも書き直すことができます。書き直した結果、遺言書が複数になってしまった場合は最も新しい日付の遺言書が有効となります。日付の古い遺言書を破棄するなどして、最新の遺言書のみを保管しておくようにしましょう。

まとめ

公正証書遺言は公証役場で作成され、公的な証明力が高いことから相続開始と同時に内容が優先されるため、原則として遺産分割協議書を作成する必要はありません。

ただし、記載されていない財産が見つかった場合や、全相続人の合意によって遺言を無効とする場合、受遺者が先に亡くなっていた場合などには遺産分割協議が必要になります。

公正証書遺言を作成する際には財産を包括的に記載し、受遺者が先に亡くなった場合の承継先を決めるなど、将来の変化に備えた内容にしておくと安心です。

また、遺言書は何度でも書き直すことが可能であるため、定期的に見直しておくことが重要です。

2,000件以上の相談実績でサポート!

相続登記の義務化って?
相続手続きの優先順位は?
どこまで代行してくれる?
なるべく早く解決したい!
認知症になる前にできることは?

1度の来所で手続きが完了!
他事務所で困難とされた相続手続きも対応可能で迅速な相続手続きをワンストップサービスで提供しサポートします。