遺産相続では故人の預金を引き出す必要があります。
手続きそのものはそれほど難しくはありませんが、必要な書類の手配や銀行の営業時間に窓口を訪れる必要があり手間暇がかかります。
銀行に死亡を届け出ると入出金が停止され、預金が凍結されることにも注意が必要です。
ここでは遺産相続で故人の預金を引き出す手続きについてご説明します。
目次
銀行預金の相続手続きは解約か名義変更かを選べる
預金の相続手続きには解約と名義変更の2つがあります。
どちらの方法で相続をするのかはあらかじめ決めておくと銀行窓口であわてずスムーズにすすめることができます。
たとえば夫名義の口座をそのまま妻が引き継ぎたい時や、利率の良い時期に預け入れた定期預金の時には名義変更を選ぶのが良いでしょう。
亡き父の預金を子供達で分ける時には解約してしまうのが簡単です。
銀行預金の相続手続きに期限はない
銀行預金の相続手続きには特に期限はありません。
ただし、相続税がかかる場合は、亡くなった日から10か月以内に申告・納付をしなければなりません。そのために遺産分割の話し合いをまとめて素早く手続きもしてしまいましょう。
預金相続を放置しているうちに更に相続人が亡くなると、関係者が増えて人間関係が複雑になります。顔の見える者同士で話がまとまっているうちに手続きを済ませておくのをおすすめします。
銀行預金の相続手続きの4つのステップ
預金の相続をスムーズに行うためには、事前に流れや必要書類を理解しておくことが重要です。おおまかな流れをご説明します。
- 銀行に相続発生を連絡し口座を凍結
- 必要書類の準備
- 預金の分配方法を決め、書類を提出
- 預金を払い戻して分ける
以上のすべてが完了するまでにはおおよそ1ヶ月ほどが目安です。
預金の分配方法が揉めずに決められればそれほど難しいことはないでしょう。
銀行に相続発生を連絡し口座を凍結
まず初めに、故人が口座を持っていた銀行へ、連絡して下記を伝えます。
- 口座名義人が亡くなったこと
- 故人の氏名・口座番号
- 他に口座を持っていなかったも調査してほしいこと
- 貸金庫契約の有無
連絡方法としては、電話(相続専用ダイヤル)・Web(専用フォーム)・銀行窓口へ訪問の方法があります。
金融機関によって連絡方法が違います。
連絡方法はWebサイトで調べたり、電話で問い合わせしてみると良いでしょう。
連絡を受けると金融機関は口座を凍結し、手続きに必要な書類一覧を送付してくれます。
必要書類の準備
金融機関から受け取った必要書類一覧に従って書類の準備をします。
遺言書の有無で準備する書類が変わります。
ここでは遺言書がない場合について説明します。
遺言書がある場合はあとの説明を参考にしてください。
書類には下記の5種類あります。
- 銀行から送付される銀行所定の届出用紙(相続届け)
- 除籍・戸籍謄本などの公的書類
- すでに作成している場合は遺産分割協議書
- 代表で提出に行く方の身分証明と実印
- 故人の通帳・証書・キャッシュカード
銀行から送付される銀行所定の届出用紙(相続届け)
「相続届け」は各金融機関ごとの独自の書式があります。
送付される見本を参考にして記入します。
基本的には代表者の口座に一括して払い戻しされて、相続人が自分たちで分けますので銀行には迷惑をかけませんという内容に全員が署名・実印押印するものです。
除籍・戸籍謄本などの公的書類
- 亡くなった方の生まれからの亡くなるまでの除籍や戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 印鑑証明書は区役所などで取り寄せ
書類の期限は最短で3か月長くて6か月など金融機関により、まちまちですので気を付けてください。
提出する先が多い場合は法定相続証明情報を作成してもよいでしょう。
法定相続証明情報については下記の記事に詳しく書いてあります。
法定相続情報一覧図を自分で作成する方法!必要書類や手順を司法書士が解説
すでに作成している場合は遺産分割協議書
遺産分割協議書をすでに作成している場合は提出が求めれらますが必須ではありません。
代表で提出に行く方の身分証明と実印
代表者が払い戻し手続きに窓口を訪れる場合は、実印と身分証明書を持参します。
除籍・戸籍謄本や遺産分割協議書は他の銀行や法務局にも提出するため原本を返却してほしいと伝えると、コピーを取って返却してもらえます。
預金の分配方法を決め、書類を提出
遺言書がない場合は相続人全員の話し合いで預金を含む遺産の分け方を決めます。
その内容を書面にして作成するのが遺産分割協議書です。
金融機関の手続きでは、遺産分割協議書の提出は必ずしも必要ではありません。
相続人が複数いる場合には、上記の銀行ごとの「相続届け」に相続人全員の署名捺印(実印)をして相続人の代表者が準備した書類とともに銀行に提出をします。
複数の銀行口座がある場合は、戸籍などは原本を返却してもらい順番に払い戻し依頼をしていくことになります。
預金を払い戻して分ける
銀行側での書類の確認作業は平均で2週間程度です。
すべての口座の解約が終わり、代表者の口座に払い戻された預金を代表者が話し合いの内容通りに分配します。
公正証書遺言がある場合の手続きは簡単
公正証書遺言がある場合は、遺言書に記載されている遺言執行者が銀行窓口に下記の書類を持参します。
故人の相続人を特定するための戸籍を生まれまで遡る作業が不要で手続きできるため簡単でスピーディです。
必要書類は下記になります。
- 公正証書正本または謄本
- 故人の亡くなった日付の記載のある除籍または戸籍謄本
遺言執行者の必要なものは下記になります。
- 実印
- 印鑑証明書(発効から3か月以内や6か月以内など銀行による)
- 身分証明書(マイナンバーカードや運転免許証)
- 払戻金を入金する口座の通帳やカードなど口座番号や店名の分かるもの
- 故人の通帳・証書・キャッシュカード
自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所で検認の手続き先に済ませます。
その際に家庭裁判所で発行された検認調書または検認済み証明書も持参します。
法務局で保管した自筆証書遺言の場合、保管法務局に申請して「遺言書情報証明書」を発行してもらいます。
この証明書を銀行に持参します。
ただし両方とも遺言執行者が指定されていない場合は別途家庭裁判所で選任手続きが必要です。
また専門家のチェックを受けずに作成した自筆証書遺言の場合、内容が不明瞭であったり不備があれば預金の払い戻しができないことがあります。その時は、相続人全員の話し合いが必要になります。
調停調書・審判書で払い戻しする場合
相続人どうしで話し合いがまとまらず、家庭裁判所の調停や審判で遺産の分割方法が決まった場合に必要な書類は下記のとおりです。
- 相続届け(銀行ごとに決まった書式があります)
- 通帳やキャッシュカード
- 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本
- 審判確定証明書(審判の場合)
- 預金を相続する人の印鑑証明書・実印・身分証明書(マイナンバーカードや運転免許証)
遺産分割前に口座からお金を引き出したい場合
口座名義人の死亡を知らせると銀行はすぐに口座を凍結します。
凍結された預金は相続手続きを完了しないと引き出しすることはできません。
ただし、故人が家計の中心だった場合などで残された家族が生活費を引き出せない場合、困ったことになります。
そのため2018年7月の相続法改正により、相続人は決められた範囲内であれば、遺産分割の話し合いがまとまる前でも預金を払い戻せるようになりました。
払い戻し額には次のように上限が決めらています。
相続開始時の預金残高の3分の1に、自分の法定相続分を掛けた金額の範囲内で銀行ごとに150万円までです。
例えば、夫が亡くなり夫の年金や預金で生活を共にしていた妻がおり、亡き夫の口座に下記の預金があり凍結された場合です。
北海道銀行900万円 北洋銀行1,200万円
北海道銀行から 900万×1/3×妻の法定相続割合1/2=150万
北洋銀行から 1,200万×1/3×妻の法定相続割合1/2=200万→上限150万
払い戻し可能額は 150万+150万=300万 合計300万円です。
この制度を使って払い戻した預金は、払い戻した妻が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます。
上記の制度利用に必要な書類は、以下の通りです。
- 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書
(出生から死亡まで連続したもの) - 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
- 払い戻しを希望する相続人の印鑑登録証明書
- 銀行所定の払い戻し請求書
銀行により印鑑証明書などの公的書類の期限が違いますのでご注意ください。
必要書類を見て分かるように、実際に解約する際に提出するものとほとんど変わらない書類の提出が求められています。
法定相続割合を計算しなければならないため、相続人全員を特定する戸籍の取り寄せが必要です。
このことから、制度はあるものの実務ではほとんど利用されていません。