遺産分割協議がまとまらないときは、どうしたらよいのでしょうか?
遺産分割の割合は一応、民法で定められていますが、実際には個々の事情も様々で遺産の受け取り分をどうするかで揉めるケースは少なくありません。
この記事では、遺産分割協議がまとまらないよくあるパターンと遺産分割協議がまとまらない場合の対応方法について解説します。
目次
遺産分割協議がまとまらない、よくある5つのパターン
相続財産や相続人の関係が複雑なケースでは、遺産分割協議をまとめるのが難しくなります。
たとえば以下のようなケースが代表例です。
- 相続財産の中に株式や不動産など分けにくい財産が含まれている不動産は分けにくい財産の代表です。
評価方法で意見が食い違うことも多く、空き家なのか・相続人の誰かが住んでいるかにより分割方法を工夫する必要があります。 - 亡くなった方に再婚歴があり話したことがない相続人同士で遺産分割をする前、妻の子供たちと後妻さんとの間柄で故人の生前に面識がないなどの場合、ほとんどは当事者同士が直接遺産分割の話し合いをするのは難しいことです。
戸籍を遡って取得して、思いがけない相続人がいることが判明するケースもあります。 - 相続人同士が疎遠、音信不通、連絡が取れない、仲が悪い遺産分割協議には相続人全員の参加が必要です。
連絡が取れない人や連絡を無視する相続人を省いて遺産分割協議をすることはできません。 - 遺産分割が終わらないうちに更に相続人が亡くなり、二次相続が発生した。
相続人が多数手続き中に亡くなった方の相続人全員も遺産分割協議に含めて話し合いをまとめることになります。
相続人の人数が増えると全員に意向を確認するのも時間がかかりもめる確率が高くなります。 - 相続人のひとりが故人の財産を管理していたり生前に介護や看護をしていた管理していた相続人が、財産の全貌を開示せず遺産分割協議をしようとしたり使い込みが疑われるケースも揉めがちです。
反対に介護看護に全く協力しなかった相続人が遺産分割の時になって、急に細かく使途を指摘してくる場合も話がこじれます。
遺産分割協議がまとまらない場合の工夫と対処法
先にお話した代表的なパターンの他にもそれぞれの事情により遺産分割協議をまとめるのが難しいケースは様々です。
遺産分割協議にあたり何が問題になるのかを考えて適切に対処する必要があります。
まずはどんな場合にもやるべき準備は下記の5つあります。
- 戸籍を調査して相続人が誰なのかをきっちり確定して相続関係図や法定相続証明情報を作成する。
- 直接電話で話せない相続人の住所を調査する。
- 法定相続分や相続放棄と遺産分割協議の方法について基本的な知識を学ぶ。
- 故人の遺産は残高証明や不動産の評価を取り寄せて遺産目録を作成する
- どのように分ければ納得感があるのか相手の立場に立って分割方法を考える
遺産の分割方法について工夫が必要なのは特に、遺産に不動産や株式などの有価証券が含まれているケースです。
不動産では売って分ける方法(換価分割といいます)や不動産をもらった人が他の相続人に代償金を払う(代償分割といいます)方法などがあり状況によって使い分ける工夫が必要です。
故人が証券会社で株式を運用していた場合は、株を相続する人は同じ証券会社に口座開設をして株のまま相続人の口座に移管する必要があります。
誰も株式運用に興味がない場合は代表者が口座を開設して一度すべての株を移管して売却現金化後に分ける(換価分割)などの工夫が必要です。
故人名義の口座のまま株を現金化することはできません。
換価分割の場合は不動産も株式も、利益が出る場合は換価金を受け取った全員が確定申告をする必要があります。
どのような分割方法がベターなのかを考え、分割後の税務申告の要否についても相続人全員に周知する方法も検討するとよいでしょう。
内容が伝わる手紙を作成する
遺産分割協議をまとめるためには相続人全員が合意することが必要です。
普段から交流のある相続人どうしてあれば問題ないのですが、過去のちょっとしたすれ違いで不仲になってしまった相続人もいるでしょう。
また、前妻の子供達や、離婚のために疎遠になってしまった甥姪などに対してはどのようにアプローチしたらよいのでしょうか?
連絡手段としては電話が考えられますが、しばらく会っていなかったり不仲な相手には直接電話をするのはハードルが高いのが通常でしょう。
そのような場合、まずは相手にお手紙を出すことをお勧めします。
被相続人が亡くなったことや相続人の関係と人数。
遺産にはどんなものがあるか。
遺産分割をするために話し合いに協力してほしいことなどを、分かりやすく相手の気持ちに配慮した内容の文章を検討します。
戸籍を辿って確認した相続人を相続関係図にまとめたものや、遺産目録と残高証明、登記事項証明書などの裏付け証拠を付けて情報を開示します。
遺産を開示しないで、ただ遺産分割協議書に押印してほしいなどの一方的な手紙では、かえって話をこじらせることがありますので注意が必要です。
相続放棄や相続税申告には、期限がありますので説明が必要な相手にはその内容も伝える必要があります。
誠実で分かりやすく、内容が伝わる手紙を考えて送ってみることで解決するケースもあります。
相続人同士で遺産分割協議がまとまらない場合の方法は2つ
相続人同士で遺産分割協議がまとまらないと一口にいっても、その原因は上記に記載したように様々です。
相続人同士の人間関係や分けにくい遺産がある場合など、専門家に依頼して相続人の連絡先を調査したり、分割方法についてアドバイスを受けることも一つの方法です。
それに対して、相続人同士の意見が合わず、すでに揉めている場合はどうでしょう。
ご自信で家庭裁判所に調停申立てをするか、弁護士へご相談されるのがよいでしょう。
専門家に依頼して遺産分割協議をまとめる
相続人同士で遺産分割協議がまとまらない原因が下記のような場合には司法書士に手続きを依頼して解決できます。
当事者で話し合いがまとめられない場合
- 人間関係の原因 疎遠・不仲・音信不通・関係複雑・多数・高齢者がいる
- 相続財産の原因 不動産・株式・投資信託など分けにくい財産がある
上記のような原因により直接連絡ができなかったり、具体的に動ける機動力がないなどの場合は司法書士によるアドバイスと手続き支援で解決することが可能です。
相続人の調査、相続財産調査、換価分割や代償分割など分割方法のアドバイスだけでなく不動産や株式を代理売却で現金化して分配。相続人への内容説明など難しい遺産分割のお手伝いをしてもらうと分割が可能になるケースは多いものです。
不動産や株式を代理売却したのちの税務申告についてもアドバイスを受けることが重要です。
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
相続人同士の意見が合わず、すでに揉めてしまっている場合は、家庭裁判所に調停申立てをするか、弁護士へご相談されるのがよいでしょう。
家庭裁判所での調停や審判になった場合は年単位で時間がかかると想定されます。
また弁護士を頼む場合は、それなりの費用も覚悟をする必要があります。
調停審判に時間とお金をかけた結果、法定相続分で分けるという結末もありえますので、裁判所を関与させた手続きは最後の手段と考えるべきでしょう。
どうしても解決できない場合以外は、お互いに譲歩することで時間もお金も節約できて亡くなった方のご供養にもなることでしょう。
調停や審判まですると、相続後に二度と会わない人間関係となってしまい、その後の子孫の人生にも影響があります。
遺産分割調停の流れ
遺産分割調停の大まかな流れについてご説明します。
調停では家庭裁判所が間に入って、相続人全員が参加して話し合いを進めます。
家庭裁判所の裁判官と、調停委員として有識者2名が間に入って相続人全員で遺産の分け方について話し合います。
調停は、あくまで話し合いで分割方法を決めることになりますので、遺産の分け方の基準や方法について特に決まったルールはありません。
申立人と相手側が調停期日に裁判所に集まり調停(話し合い)を行います。
調停期日は1か月に1回程度です。
基本的に当事者間で直接話し合うことはなく、申立人と相手側が交互に調停室で調停委員と話しをします。
順番を待つ間は別室で待機します。
調停においても確認する内容は通常の遺産分割協議と同じです。
- 相続人が誰かを確認
- 遺産の内容を確認
- 遺産の評価の確認
遺産の評価でもめている場合は、裁判所が選ぶ鑑定人に鑑定を依頼する場合があり、その場合には鑑定費用がかかります。
- 特別受益と寄与分の確認
それぞれの法定相続分は「特別受益」や「寄与分」にの主張によって修正されることがあります。
- 各相続人の取得財産の確定
調停委員が、双方から意見を聞いて相続人全員が合意する遺産の分割内容を決めることになります。
調停が成立した場合
調停で遺産の分け方に相続人全員が納得して合意ができた場合は、裁判所が合意の内容を調停調書にまとめます。
調停調書を利用して不動産の名義変更や預貯金の解約をすることができるようになります。
調停が不成立となった場合
どうしても話し合いがまとまらず調停が不成立になった場合には、自動的に「遺産分割審判」のとなります。法律に従って裁判所としての判断を示すことになります。
遺産分割審判は、各当事者からの主張や提出された証拠資料に基づいて、裁判官が遺産の分割方法を決めます。
相続税の期限に遺産分割がまとまらない時は法定相続分申告でしのぐ
相続税の申告・納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地の管轄の税務署に行います。
相続税申告は、遺産分割協議がまとまっていない場合でも期限内にしなければなりません。
遺産の分割方法が決まっていないことを理由に相続税の申告期限が延びることはありませんので注意してください。
期限内に相続財産の分割の話し合いが決まらないときは、法定相続分の割合で財産を取得したものとして相続税の計算をして、いったん申告と納税をします。
その場合は、小規模宅地の特例や配偶者の税額の軽減の特例などが適用できません。
期限までに財産を分割できない方が小規模宅地の特例や背痛者の税額の軽減の特例を受けたい時は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。
特例の適用には3年以内の遺産分割協議が必要
一度法定相続分で申告をした後に、遺産分割協議が整った際には相続税の計算をしなおします。一度支払った相続税より多く納付が必要な場合は修正申告し、払いすぎた相続税を取り戻す場合は更正の請求ができます。
ただし、修正申告とは違い、更正の請求には期限があります。
分割が行われた日の翌日から4か月以内となります。
この修正申告や更正の請求には、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減を適用することができます。
ただし、原則申告期限から3年以内に遺産分割があった場合に限られます。